時間というのは残酷なのか慈愛なのか、
ドラゴを失った悲しみは徐々に癒えていった。
だが、決して自責の念だけは消えることはなかった。
ボクは結婚して3人の子どもに恵まれた。
長男が小学4年生のころ、あるおねだりをしてきた。
犬を飼いたい。
ボクはビクッとした。
ボクには犬を飼う資格がない。当然だ。
でもボクというヤツは本当に身勝手な人間だ。
もう一度チャンスが欲しいと思った。
ドラゴ、許してくれるかい?
ボクの問いかけは空へ吸い込まれていった。
ボクは息子と一緒にペットショップへ来ていた。
今日は見るだけだと約束し、かわいい子犬を見てまわった。
どうやら息子は気になる子を見つけたようだった。
お?血統書付きなのか。ちょっと見せてもらおう。
え!?父がドラゴ!?
もちろんあのドラゴではない。そんなことは分かっている。
でもボクは店員さんに言っていた。
この子を家族にしたいです。
新しく家族に加わった子の名前は「ボル」に決まった。
子どもたちは本当によくボルの面倒を見てくれた。
愛情をいっぱい受けてボルはすくすくと育った。
ボクもドラゴにしてやれなかった分以上に愛情を注いだ。
そうすることで許されたかったのかも知れない。
だが、自責の念が消えることはなかった。
ドラゴはドラゴ、ボルはボルなのだ。当たり前のことだった。
ボルを加えた幸せな時間はあっという間に過ぎ、
ボクは60歳、ボルは17歳になっていた。
もう2人ともおじいさんだ。
いつものように2人で散歩に繰り出す。
ボルは足が弱ってきており、ヨロヨロしながらついてきていた。
ボクはちょいちょい振り返りボルを確認しながら歩いていた。
もう新鮮味なんてこれっぽっちもない。でもとっても幸せだ。
「幸せだなぁボル」と声をかけようと振り向いたとき、
ボルは足がもつれて車道の方へよろけてしまっていた。
あぶない!
ボクは仰向けで倒れていた。車道で。
なんだか右頬が生暖かい感触がする。
ボルが心配そうにペロペロ舐めていた。
あぁ、ボル、、、無事だったんだね、、、よかった、、、、
そのまま目の前が真っ暗になった。
が、ボルの遠吠えは最後まではっきり聞こえた。
今ボクはお空にいる。そして隣には愛犬。
「50年も掛かってしまったね。また一緒に暮らしてくれるかい?」
「ワン!」
ドラゴは満面の笑みを浮かべながら尻尾を振ってくれた。
ー 完 ー